date2017-04-21
第6話 夢を叶えるのは誰か

 夜空に渦巻く興奮の中に飛び込む声があった。
 4月14日の埼玉西武戦。1点を追う9回裏だった。ダフィーの二塁打と田村龍弘の四球、清田育宏の犠打で1死2,3塁とすると、続く岡田幸文の打席で相手ベンチは満塁策を選択したようだった。1球目が大きく外された瞬間、マリーンズのベンチが慌しくなる。空いていた塁を岡田が埋め、一打逆転サヨナラの絶好機。球審に交代を告げる伊東勤監督と同時に、ベンチからは準備を整えた大ベテランが姿を現した。
 代打・福浦和也の登場にZOZOマリンスタジアムは熱狂した。その佇まいが追い上げムードを確かなものとして、勝利をぐっと引き寄せていくようだった。結果、試合は惜敗したが、球場の興奮が最高潮に達した瞬間だったことは間違いなかった。

 福浦の名がコールされる少し前、岡田の打席で緑色のランプが並んでいく最中、ベンチを背にネクストバッターズサークルで素振りを繰り返す選手がいた。途中でグリップに滑り止めのスプレーをかけて、またバットを振る。数秒後、三木亮はベンチに戻り、手にしていたバットを置いた。目下に広がるのは、敵陣の緊張と味方の興奮が入り乱れる様。全員の視線が打者の福浦に注がれる。それらに乗り遅れないように続いた。
 ユニフォームを着ている選手は、いつだって自分が出来る最大限のことをしなければならない。三木はチームの勝利のために精一杯の声を出した。それは無数の声援に混ざり、グラウンドにいる選手たちの力となった。

 チーム内競争の構図は毎年変動する。2014年に三木が入団した当時、一軍の遊撃手には3年目の鈴木大地が定着していた。翌年からは後輩が増え、2015年に中村奨吾、2016年に平沢大河がドラフト1位の内野手として入団した。高濱卓也大嶺翔太らもしのぎを削り、限られた枠で外国人選手とも競わなければならない。二軍にたくさんの選手が控えていることだって当然分かっている。
 今年は鈴木が二塁手に転向したことが大きな話題となった。4年目の三木は初年度からここまで毎年出場試合数を増やしている。本職である遊撃手のポジションが空き、今春のキャンプの実戦では本塁打を放つなどアピールをした。開幕一軍スタートはならなかったが、4月上旬に昇格を果たすと、16日の埼玉西武戦では代打で登場して適時二塁打を放った。「自分のいいスイングを心掛けたことが良い結果になった」という一打で、今季初安打初打点を記録した。

 「(遊撃手は)今の時点では誰が一番手とは決まっていないと思うので、そこに割って入りたいです。今までは大地さんがずっと出ていたけれど、その頃からショートで出たいという思いはあったので、今年巡ってきたチャンスをいかにものにできるか。これまでの3年間よりも強い気持ちがあるので、いい形で結果を出していきたいです」

 現在、マリーンズは波に乗り切れない状況が続いている。
 福岡ソフトバンクに完封負けを喫した試合後、本拠地の室内練習場では伊東監督とコーチ全員が見守るなか、野手10人の居残り夜間打撃練習が敢行された。伊東監督は「長いシーズン、当然いいことばかりではないけれど、(試合で)打てなかったら、練習をして打つしかない。いいことが待っていると思ってやらないといけない」と話した。異例の光景は事態の深刻さを示していた。いつも明るい声が飛ぶ練習場も、このときばかりは違う顔を見せる。切り取られたように誰の声も聞こえない。打球音とバットを振る選手たちの息遣いだけが存在する空間。鬱憤や葛藤を削ぎ落とし、代わりに何かを掴み取ろうと、それぞれの集中力が塊となってその場を支配しているようだった。そこには三木の姿もあったし、当然、平沢や大嶺翔らの姿もあった。伊東監督を含めた全員が練習場を出たのは23時半。チームという巨大なものを上昇させるため、選手たちの置かれる立場も依然として揺れ動き続けていた。

 先発、代打、代走、守備。様々な出場のタイミングを想定して試合に挑む。丁寧な準備をする大切さを実感したのは、プロ1年目の春季キャンプだった。三木は一軍メンバーに抜擢されたが、左太もも裏の肉離れにより序盤で別メニュー調整を余儀なくされた。出はなを挫かれたと思った矢先、予想だにしない出来事が待っていた。三木自身も野球に対するストイックな姿勢は入団前から評価されていたが、同じ二軍球場で独自の調整を行う福浦の姿には衝撃を受けた。行動の全てにきちんと裏付けがあり、計算し尽くしたコンディションの上げ方をしている。新人選手がプロのあるべき姿を知った瞬間だった。当時の三木は、「ケガをしたことはマイナスでしたけど、福浦さんと同じ環境にいられたことはプラスになりました」と話していた。
 あれから4年が経過した今は、試合に臨む姿勢について学ぶことが多い。あの日、三木に代わって満塁で打席に立った福浦は今年24年目を迎えている。ベンチから声を張り上げた三木は、きっと入団当初よりも深く知っている。打席に立つための全幅の信頼を得ることがどれだけ難しいか。長年にわたり大歓声を受け続ける選手がどれほど偉大であるか。そして、その域に到達するには数少ないチャンスを掴み続けなければならないということも。

 「途中で代えられたとしても、それは自分の結果が出ていないから代えられたということ。そこでしゅんとなっていても仕方ないですし、周りからも良くは見られない。しっかりと受け止めて、あとは元気を出してやっていくしかないので、切り替えて声を出すようにしています。どんな状況でも試合に対応できる準備を早い段階から心掛けて、今は与えられた場面で自分のできることをひとつひとつしていきたいです」

 広いグラウンドには肩を並べる仲間がいる。それは確かなことだが、そこに自分の夢を叶えてくれる他人の手は存在しないのかもしれない。
 すべては自分次第だ。三木には遊撃手としてレギュラーを掴むという目標がある。思い描いた未来に向かって全力で立ち向かう。壁を打ち砕こうと懸命に戦う選手の可能性を、誰も奪うことはできない。

長谷川美帆(千葉ロッテマリーンズ オフィシャルライター)=文 text by Miho Hasegawa

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